
こんにちは。最近少しだけやる気が出たので、短い頻度での更新になります。
さて、今回はタイトルの通り、台湾の航空会社に関しての最新情報です。
昨今の円安や台湾ドル高の影響により、日本人でありながら在台パイロットである私にとって、台湾ドル高はとても大きな恩恵となっております。また、以前にご紹介した台湾の航空会社の給与事情も、今では古い情報になってしまった為、今回は台湾の航空会社の最新の給与事情を最近の台湾ドル高事情と合わせて皆様にお伝えしたいと思います。
それではどうぞ。
FOの毎月の手取り額が130万円?! 台湾パイロットのリアルな現状。
以前に台湾の航空会社については、エバー航空とSTAR LUX航空についてこちらの記事で紹介させて頂きました。
エバー航空とSTARLUXの給料は、以前は後者の方が若干良かったのですが、2025年現在はほぼ似たり寄ったりの値になっています。ボーナス分を加味すると今現在台湾の航空会社で一番いいのは中華航空ですが、ほぼ大手3社とも同じ水準にあります。
上記の記事を書いた2023年時点では、FOの年収は日本の税制換算で1800万円前後と書きましたが、現在は台湾ドル高の影響や台湾航空業界全体での給与水準の上昇により、FOで2600万円(日本での年収換算)、CAP1年目で4000万円ほどになっています。
この値はあくまでも日本の税制に換算した場合です。
実際に大事なのは毎月手取りとしていくら入るのか、手取り年収としてはどの程度になるのかだと思いますので、そこを詳しく見ていきます。
2025年現在での給与水準
2024年の航空業界が好調だったことにより、台湾の各社は給与水準を引き上げました。
その結果として、2025年7月現在の為替レートで計算すると、FOでは毎月の手取り額平均として120万円〜150万円、CAPでは160万円〜200万円程度まで上昇しています。(パーディアム等含む)
更に以前の記事でも紹介した通り、台湾の航空会社では13ヶ月給与や税金還付、そして業績ボーナスなどが入るので、全てを加味した実際の手取り年収の値は、FOでおよそ1600万円〜1800万円、CAPでは2500万円〜2800万円ほどになります。
これは全て1年目の値です。
実際は機種や会社により多少の変動はあるものの、概ねこの水準となります。
日本との比較
ではこの手取り額は、日本の税制に当てはめるといくらの年収になるのか。以下のサイトでおおまかな年収が計算できるので見てみます。
まずはFOの平均水準である手取り1600万円〜1800万円の場合。
FO 手取り年収1600万円時の額面年収

FO 手取り年収1800万円時の額面年収

上記の値は各種控除が加味されていない為、実際の値とはズレる可能性もありますが、概ね近似値かと思います。つまり、日本で手取り年収1600〜1800万円は、額面年収およそ2600万円〜3000万円と言うことになります。
それでは続いてCAPを見てみましょう。
CAP 手取り年収2500万円時の額面年収

CAP 手取り年収2800万円時の額面年収

日本で手取り年収2500万円〜2800万円の場合は、なんと驚愕の額面年収4400万円〜5100万円という結果になりました。繰り返しますが、これは1年目の値です。

ただ、注意して頂きたいのはこれはあくまでも現在の台湾ドル高による恩恵ということ。あくまで一時的な可能性もありますので、逆に今後台湾ドル安になれば日本円に変えた時に給料が目減りしてしまうと言うことです。
なぜこれほど急激に台湾ドル高になったのか?要因は複数ありますが以下の記事が参考になるかと思います。
“円高のマグマ”はどうなる 飛び火する異変 | NHK【NHK】大型連休で日本のマーケットがお休みだった5月初旬、外国為替市場で“まれにみる”異変が起きていました。トランプ政権の政策と…
この記事にあるように現在のトランプに政権の政策により、現在の台湾ドル高を引き起こしている可能性もありますので、今後政権が変わればこの台湾ドル高は終了する可能性もあります。
直近の台湾ドル/円の傾向
では、具体的にどれほど台湾ドル高なのか。チャートを見て見ると最近の傾向がよくわかります。

例えば2019年の時には1TWD≒3.5円でした。それが現在では1TWD≒5円なので、例えば1ヶ月の給料が20万TWDであった場合、2019年時には70万円ですが、現在では100万円になっています。つまり、およそ40%も給料が上がったことになります。もちろんこれは日本円に換算した場合なので、台湾に在住していれば影響は少ないですが、日本から通っており、定期的に日本円に両替するコミューターパイロットにとってはかなり嬉しい影響です。
台湾航空会社のリスクとデメリット

これだけ高い給料をもらえて、親日国家である台湾。もうメリットしかないような気もしますが、もちろんいいことだけではありません。私が考えるこの国で働くことのリスクとデメリットについても正直にお伝えします。
為替リスク
これはリスクとメリットの表裏一体でありますが、為替の値によって給料が安定しないということです。もちろん、台湾で住む分には日本円へ変える必要がないのでその心配は無用であり、現在のところ物価の上昇に合わせて概ね給料も上昇しているので安定していると言えます。しかし、日本の家族へ送金する場合や、実際に日本からコミュートするとなると、為替の動向は常に気掛かりになり、毎月の給料が先月に比べて数十万円も変わってくることもあります。既に述べたように2019年と比較すると台湾ドル高により日本円換算で40%も給料が上昇し、すごく大きな恩恵を受けていますが、この先は未知数であ、逆に円高に進んだ場合についても備えておく必要があります。
地政学的リスク
『台湾』と聞いてまず最初に思い浮かべることはなんですか?WBC、パイナップル、南国、マンゴー、バナナ、チアリーダー・・・。
そして一定数が中国からの侵攻リスクを思い浮かべるかと思います。
実際、近年では毎年と言っていいほどに中国が台湾を取り囲むようにして軍事演習を行なっています。
その度に各航空会社は迂回ルートなどの対応を迫られ、それについてのNOTAMが発行されるたびに私も来るべきXデーについて考えさせられます。
中国軍事演習、153機が台湾周辺で活動 過去最多中国が14日に台湾海峡および台湾を取り囲んで実施した陸、海、空軍の合同軍事演習で、過去最多となる戦闘機などの軍用機が活動したことが分かった。台湾国防部(国防省)が明らかにした。
台湾では毎年夏頃、Air Raid(萬安演習) と呼ばれる演習が行われます。これは中国からの軍事的脅威を想定して行われる防空演習で、台湾全土で行われます。警報が町中に響き渡り、携帯にも爆音で緊急速報で警報が鳴ります。屋外にいる人は屋内へ移動することが求められ、走行中の車両も路肩に停車しなければなりません。これは観光客も対象なので、何も知らずに街を歩いていると注意されます。この命令に従わなければ30,000 TWD〜150,000TWDの罰金があります。
また、近日台湾で公開予定のドラマに「零日攻擊」というものがあります。これは中国が台湾へ軍事行動をとるといった、とてもフィクションとは言い難い内容のドラマです。日本での配信も決まっており、日本からも高橋一生や水川あさみなどの俳優が出演しているので、是非とも日本国民にも観て頂きたいドラマです。
まるでドラマの広告になってしまいましたが、台湾という国は中国からの侵攻リスクを常に抱えた国だということです。この国で働く以上はそのリスクを理解する必要があります。
以下のサイトで予告編を見ることができますが、かなりクオリティが高く、現地にいる身としては予告編を見ただけでもとても恐ろしく感じました。。。
台湾ドラマ「零日攻擊」、8月に放送開始 日本でも配信=台湾海峡戦争描く - フォーカス台湾台湾海峡戦争を題材にした台湾ドラマ「零日攻擊 ZERO DAY ATTACK」が8月に台湾や日本、インドネシアで放送・配信開始される。台湾では8月2日から公共テレビ(公視)やLINE TVなどで毎週土曜に、日本ではプライムビデオで8月15日Read more...
台湾での生活
“台湾の航空会社で働くデメリット”の内容としては少しずれてしまうかもしれませんが、エバー航空のように日本からのコミュート制度を認めている会社以外ですと、台湾に住まなければなりません。(実際は全ての会社で日本から通うことは可能)
台湾で観光で来る分には、ご飯も美味しく人も優しく、日本から近くて楽しい親日な国。これに尽きるかと思いますが、実際に住んで生活してみると色々とダークな面を目にすることがあります。
以前に台湾の生活に関する記事を書きましたので、そちらを参考にしてください。
ICAO非加盟
これは直接日本人パイロットには関係なく、現地の台湾人パイロットに関係することですが、台湾は中国との政治的な問題により、現在はICAOに加盟していません。そのため、台湾でライセンスを取得した場合、そのライセンスを使用して他社へ移ることは難しいです。(多くの会社ではICAO or FAAのライセンスが募集要項にあるため)
航空会社によって扱いは変わってきますが、いわゆる”使えないライセンス“になる可能性が高いということです。
これがなぜ日本人パイロットには関係のない話かというと、台湾の航空会社では外国人パイロットの採用の要件として、副操縦士で採用した場合にも入社の段階で既にFAAやICAO加盟国のATPLを求めているからです。
そのため、現地の台湾人のように他の会社へ転職するのが難しいということはありません。
しかし、残念ながら全く関係ないとは言えない可能性もあります。ICAO非加盟国でのフライトタイムになるので、ICAO基準ではありません。そのためにその飛行時間を認めるかどうかは採用する会社、国次第であり、あくまでもICAO非加盟国での飛行時間は正式なものではなく、参考情報としての扱いになる可能性があります。
現在は中華航空、エバー航空などから世界中の航空会社へと転職実績があるために過度に心配する必要はありませんが、例えばこの先中国と台湾の関係が今以上に悪化し、ICAO加盟国である中国の圧力によって、台湾での飛行時間をICAO加盟国内では認めないといった措置が取られる可能性もゼロではありません。そうなると台湾の航空会社で昇格した人はPIC TIMEの扱いがゼロなる可能性もあります。
これはあくまでも極端な仮定の話なので、現実的には可能性は極めて低いですが、ICAOに加盟していないということはこのようなデメリットも存在します。
どこの航空会社を選ぶべきか
では、実際にメリットデメリットが分かった上で、どこの航空会社を選ぶべきか。異国の地の航空会社なのでなかなか情報も入りづらく日本人にとっては未知の部分が多いと思います。
そこで、あくまで私の独断と偏見ですが、それぞれの立場や環境に合った航空会社をご紹介したいと思います。
台湾には大手2社である、中華航空、長栄航空(EVA AIR)、そしてLCCであるタイガーエア、更に最近勢いに乗っているSTAR LUXの4社があります。それぞれの会社に各々の特徴があり、どの会社へ行くかは非常に悩ましいところだと思います。実際、これ関連の問い合わせは多く、台湾の航空会社に興味はあるけど実情がわからないという日本人パイロットの方は多いかと思います。
そこで、簡単ではありますが、まずは現在のご自身が置かれている状況で選ぶべき航空会社が分かれるのでそれぞれで場合分けしていきたいと思います。
ケース①:日本で機長として飛んでいる方
現在、台湾の航空会社の中でエバー航空は副操縦士のみを募集しており、機長として入ることはできません。
したがって、機長としてのポジションを維持したい方にはエバー航空は選択肢に入りません。
一方で、*中華航空、STAR LUX、タイガーエアでは、機長ポジションでの採用チャンスがあります。
*現在中華航空はエージェントを通じての募集はなく、直接会社HPから採用担当へ問い合わせという状況。
ケース②:日本からコミュート(通勤)したい方
日本を拠点にしながら台湾で働きたいという方も多いかと思います。その場合はエバー航空、STAR LUX航空の2社が選択肢に入ります。
・エバー航空:通勤制度が一番豊富であり、実際に多くの日本人パイロットが通勤制度を利用し日本から通う生活を送っている。日本人の在籍数は台湾の航空会社で一番多い。
・STAR LUX:まだ設立してから日が浅い航空会社なので制度自体は発展途上だが、元々エバー航空の会長が作った会社ということで通勤制度への理解は深く、設立された当初から比べても、既に色々と待遇が改善してきている。(BDOの増加など)日本路線にも力を入れているので、今後の日本人パイロットの採用増加に伴いこの先エバー航空と同等の通勤制度になる可能性が高い。
ケース③:現在FOで、台湾で経験を積みつつ昇格も目指したい
個人的には日本で経験を積んだ後に海外へ出ることをお勧めしますが、どうせなら台湾の航空会社へ早く移って機長昇格も目指したいという人もいるかと思います。
全ての会社で機長昇格を行なっていますが、中華航空は待遇面が良い反面、昇格までには10年以上かかるということで有名です。もし、台湾で早めの昇格を目指すのであれば中華航空を除いた3社をお勧めします。
エバー航空:エアバス機、ボーイング機をそれぞれ保有しているので、日本での経験を活かしやすい。ただし、希望機種が通るかどうかは不明。実際に何人かの日本人機長が誕生しているので、実績は豊富。日本からの通いやすさや、待遇面も含めて一番バランスがいい。
タイガーエア:台湾唯一のLCC。エアバス愛が強い人、短距離路線が好きな人、こじんまりと、和気藹々とした雰囲気で働きたい人向け。例年、高いボーナスで話題。昨冬は10ヶ月以上のボーナスが支給された。
STAR LUX:設立されてから5年目を迎え、今一番勢いに乗っている会社。以前までは訓練枠の影響などで社内昇格はおろか入社訓練すら遅れていたが、現在はSIMの新規導入や新機材の導入などでどんどん規模を拡大しており、最近では日本人パイロットも複数人入社している。会長の豊富な資金力により新機材、新規路線をどんどん開拓中。現在のところアライアンスに非加盟なので、福利厚生という面ではエバー航空や中華航空に劣る。
まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は、台湾の航空会社における最新の給与事情と、選ぶべき航空会社についてご紹介しました。台湾の航空会社の給与水準がここまで高いことをご存じなかった方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、メリットばかりに目を向けるのではなく、それに伴うリスクについてもしっかりと理解したうえで、今後の人生設計を考えることが大切です。私自身、日本を離れて実際に台湾の航空会社で働いており、その実情をお伝えしていますが、これはあくまでも情報をシェアすることが目的であり、私と同じ道を推奨しているわけではありません。
日本の航空会社、海外の航空会社、LCC、フルサービスキャリア、国際線、国内線、プロペラ機、ジェット機・・・働き方にはさまざまな選択肢があり、それぞれに適したスタイルがあります。そこに優劣は存在しません。
ぜひ、自分に合ったライフプランを見つけていただき、その選択の一助として、私のブログの情報が少しでもお役に立てば幸いです。
PS : 最近嬉しいことに日本から多くの若手が台湾の航空会社へ転職している一方、それについてよく思わない発言をしている方がいるそうです。他人の人生に口出しすることで自分の人生を肯定する、いわゆる劣等感からくる行動でしょうが、他人を羨むなら自分自身が行動せよ。これに尽きます。
それでは、また!
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