航空業界の現状と今後のパイロットの需要

航空業界の現状について

多くの職業がコロナウイルスによって打撃を受ける中、航空業界は最も影響を受けた業界の一つです。

日本ではあまり多く報道されていませんが、コロナの影響により、世界では2020年以降に航空会社が30社ほどが倒産しました。中部空港を拠点としていたエアアジアジャパンもその内の一つです。

List of airlines impacted by the COVID-19 pandemic - Wikipedia

幸いにして倒産は免れたとしても、多く航空会社が経営難に陥り、路線規模の縮小や廃止、そして従業員の減給や解雇が発生し、2021年10月現在も引き続き厳しい状況が続いています。

コロナ以前の世界では、パイロットは一人育てるのに相当の費用がかかり、時間もかかるために、会社にとっては多少経営が厳しくても、簡単に切ることのできない存在でした。

しかし、未曾有の事態となった今回のコロナでは、高給取りであるパイロットは会社の足枷となり、会社存続のために多くのパイロットが世界中で解雇される事態が発生しました。

需要と供給のバランスが一変した結果、将来のエアラインパイロットを夢みている多くの学生、訓練生にまでその影響が及びました。採用の中止や延期、訓練の中断など、中には人生の再選択を余儀なくされた人も少なくないかと思います。

今回の新型コロナウイルスが及ぼした影響がどれほど大きかったかというのが、ICAO(国際民間航空機関)が発行している資料を読むとよくわかります。

出典元:ICAO

過去を振り返ると、1980~1988年のイラン・イラク戦争や、2001年の米国での同時多発テロ、2002年のSARSウイルスなど、世界では様々な危機が起こってきましたが、グラフで見ると今回の新型コロナウイルスの影響は過去と比較してもいかに影響が桁違いだったのかがわかります。過去に様々な危機があっても順調に右肩上がりで推移していた旅客数は、今回の新型コロナウイルスの蔓延により、一気に20年前の水準まで落ち込みました。

続いて米国内における、コロナによる業種別の影響についてです。航空業界とホテル等の観光業界が大きく影響を受けているのがよくわかります。

出典: Airline.org

そんなお先真っ暗な航空業界ではありますが、最近ようやく航空業界にとって少しづつ明るいニュースが目に入るようになってきました。

ワクチン接種が進む米国では、21年4〜6月の決算でデルタ航空とアメリカン航空が黒字に転換し、ユナイテッド航空も赤字幅を大幅に縮小しました。国際線については未だに低水準が続いていますが、国内線の予約状況は非常に順調に推移しています。以下のグラフでは、米国内においてのビジネス旅客は右肩上がりで順調に回復し、2024年ごろには2019年の水準に回復するとの試算が出されています。

出典:Airline.org

中国を見ると、2020年10月の時点で、中国の国内航空路線の旅行者数は2019年10月のそれを上回る傾向にあり、2021年1月中旬に中国がロックダウンに入った際には落ち込みはありましたが、3月には2019年3月よりも多くの旅客が中国の国内航空便を利用していました。以下のグラフを見る限りでは、多少の変動はあるにせよ、国内線についてはほぼ2019年の水準まで回復していることがわかります。

出典:ICAO

世界を見ると国際線の需要はしばらく停滞しそうではありますが、国内線においては米国や中国を筆頭に、2019年以前の水準まで既に回復しつつあります。日本においては世界と比べては若干回復速度が遅いものの、最近の緊急事態宣言の解除に伴い、予約状況が旺盛になっているとのニュースもちらほらと見られるようになりました。

世界の航空業界が徐々に回復に向かっているというのは分かりましたが、肝心のパイロットについての需要はどうなのか。今後のパイロット需要について考察していきたいと思います。

今後のパイロット需要について

まず、先に結論から言ってしまうと、今後のパイロット需要は減るどころか間違いなく増えていきます

上でも述べましたが、今回の新型コロナウイルスによって世界中で多くのパイロットが解雇され、職を失う事態となりました。パイロットの採用状況は未だに限定的で、採用の募集があった際にはすぐに応募殺到により埋まってしまう状況が続いています。

そんな状況にも関わらず、なぜパイロット需要が増えると言い切れるのか?それは、世界的な航空市場の拡大とパイロットの数が釣り合っていないからです。この問題は新型コロナウイルスが蔓延する2019年以前から「2030年問題」として世界的に取り上げられてきました。

今回の未曾有の影響により、一時的にパイロットの需要がなくなったとはいえ、根本的な解決にはなっていません。現に現在の航空業界は右肩上がりで急回復しており、国内線に限ればいくつかの国で既に2019年の水準にまで戻っています。今後世界でワクチン接種が順調に進めば、国際線もいづれは2019年以前にまで回復するでしょう。むしろ、コロナ禍で海外旅行に行けない鬱憤が溜まっている分、以前よりも強い需要があるかもしれません。

これは、世界のパイロットの需要と供給を表しているグラフです。コロナの影響で一時的に大きく需要が減りましたが、2022年頃を境にして、その後は需要が供給をひたすら引き離していくことが予想されています。2029年ごろには、世界で6万人のパイロットが不足するといった試算です。

出典:Oliver Wyman analys

次に、こちらが地域別に見たパイロットの需要と供給です。特に注目すべきは、アジア地域でパイロットの供給が追いついていないことが顕著に表れている点です。これはアジア地域において中国、インドを筆頭に人口増加率大きいことが影響しています。

出典:Oliver Wyman analys

日本においてもこれは深刻な問題として捉えられています。国土交通省が発行した資料によると、2030年頃には現在の主力である40〜50代の乗員が一斉に退職する時期を迎えるため、深刻なパイロット不足に陥ることが予想されています。特に影響が大きいのがLCC(格安航空会社)です。元々LCCは、自社でパイロットを一から育てる力が弱かったために、多くの経験者パイロットを採用した経緯があり、パイロットの年齢構成は高い傾向にあります。

出典:国土交通省

まとめ

以上のことを踏まえますと、今後のパイロット需要に関しては以下のように言えると思います。

・今回の世界的なパイロットの大量解雇については、会社生き残りのための苦肉の策。

・むしろこれからパイロットを目指す人にとっては需要は右肩上がりで増えていくのでチャンス。

・今後もしばらくは、体力のない会社は生き残るのが厳しい状況が続くので、会社によってはまだまだ倒産するリスクはある。

・パイロットの需要については楽観していいが、原油高がしばらく続く可能性があるため、航空会社にとっては引き続き厳しい状況が続く。

・日本においてはLCCを中心にしてパイロットの需要は高まるばかり。しかし、原油高や、国際線再開の目処が立たない現状を考えると、体力のない会社は生き残りに必死でしばらくは採用を見合わせる可能性がある。

こうしたことから、今現在パイロットを目指している方は、悲観的になりすぎる必要はないかと思います。自身でライセンスを取得する方はまずは、ライセンスを取得することに集中し、私大や航大からパイロットを目指している方は、必ずや訪れるパイロットの爆発的な需要に備えて、今のうちにしっかりと準備をしておくことが重要です。今回のコロナによって夢を諦める必要はありません。

繰り返しになりますが、必ず大きな需要の波は今後訪れます。

今は準備期間だと思い、大波が来たときに乗り遅れることのないよう、来るべき時に備えてください。

次回は、全世界のパイロットを対象にして行われた最新の調査、Pilot Survey 2021について紹介したいと思います。

非常に興味深い調査ですので、お楽しみに。

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