今回は、前回のパイロットのお仕事メリット編に引き続き、デメリット編です。
いい面だけではないこの仕事について、実際の現場の声として正直にありのままお伝えしています。これからパイロットを目指している方の参考になれば幸いです。
メリット編についてはこちらです。
デメリット
こんなにメリットたくさんのパイロットという仕事。何か悪い面はないのか?
勿論あります。今度はデメリット部分についても詳しくご紹介します。
ライセンス取得までがとにかく大変!
学費/訓練費
パイロットを目指す場合、大変なことが2つあります。
それは、学費(訓練費)と勉強です。
エアラインパイロットになるには、概ね4つのコースがあります。
- 桜美林大、東海大、法政大、崇城大などの、パイロット養成コースがある私立大を目指すパターン。
- 大学を卒業後に、航空会社の自社養成コースを受けるパターン。
- 大学卒業後に航空大学校にいくパターン。
- 自費でライセンスを取得し、航空会社の入社試験を受けるパターン。
これらのパターンのうち、1と4のコースはかなりの学費、訓練費が発生します。
例えば1番の私大コースの場合ですと、為替状況や各大学によっても違いますが、4年間の総額でおよそ2000万円近くの学費がかかってしまいます。
実は私もこの1番コースだったわけですが、実家が裕福というわけではなく、ありとあらゆるところから借金をし、なんとか学費の工面をしました。そういったことから、高給取りであるはずのパイロットになった今ですら、未だにその時の学費を返済しています。
勉強
ここでの勉強というのは、上でいう1〜4に進んだ後での勉強ということです。
私の経験から皆様に情報を提供できるのは、1の大学についてですが、世間一般の煌びやかなキャンパスライフとは大きくかけ離れています。
入学してからの1年目は、航空に関わる分野だけで35回の試験がありました。
<事業用課程>
- 航空力学 4回
- 航空法規 4回
- 航空気象 4回
- 推進装置 2回
- 航空計器 3回
- 航空機システム 3回
- 航空交通管制 1回
- 空中航法 3回
- 航空援助業務 1回
計25回
<計器課程>
- 飛行安全
- 航空法規Ⅱ
- 航空図判読法
- 航空気象Ⅱ
- 計器飛行法
- 航空交通管制Ⅱ
計6回
<国家試験>
- 航空無線通信士
- 事業用操縦士 2回
- 計器飛行証明
計4回
これだけでも相当ハードですが、勿論、普通の大学生と同じようにこれとは別で一般科目についても履修をしなければなりません。この試験回数に加えて、一般の授業の試験も勿論あります。
一般的な大学は4年で124単位以上の取得が求められているため、年平均だと31単位ですが、私の大学の場合は2年目から実機訓練があるために、1年目に74単位を取得するという、普通の大学生の倍以上の単位を取得しなければならないというハードな生活でした。それに加えて国家試験の合格や、留学条件であるTOEFLスコアの取得など、朝から晩まで勉強づくしの毎日でした。
ちなみに私の場合は、経済的に余裕がなかったので、周りは裕福なボンボンが多い中で唯一、アルバイトもするという、相当なドMじゃない限り発狂してしまいそうな生活を送っていました。
授業後に行けることや、時給が高いこと、バイトの合間に単語カードで勉強ができることなどの条件を全て満たしたバイト先が・・・・大学の隣駅にあるキャバクラでした。(笑)
勿論、フロアレディボーイではなく、ボーイをしながら、ドリンクを作っては合間に単語カードで勉強という日々を送っていました。
なんの参考になるかはわかりませんが、勉強が忙しくてバイトをする暇がないという方の参考になれば幸いです。(笑)
ライセンス取得後も大変!
1年目の忙しすぎる大学生活をクリアし、留学条件をクリアできればなんとか2年目から米国へ航空留学へ行けるわけですが、ここでもやはり厳しい環境が待っています。
米国の生活自体はすごく楽しいですが、定期的に行われる試験に2回連続で落ちてしまうと強制的に帰国をしなければならないという強いプレッシャーの中での訓練になります。一人の脱落者も出さないよう、同期と助け合いながら訓練をしていくわけですが、現実は厳しく、一人、また一人と日本へ去っていく姿を見るのは非常に辛いものがありました。
そうして約1年半の留学の間に、自家用、事業用のパイロット免許、計器飛行証明と呼ばれるもの等々、日本で飛行機を操縦するのに必要な免許を取得し帰国します。
結局、入学時に50数名いた仲間の内、無事にライセンスを取得できたのが40数名、更にその後航空会社へは全員が入社できた訳ではありません。
最終的には同期のうち、約10名近くの仲間がエアラインへ入社できないという結果でした。
夢であるエアラインパイロットになる為に努力し、せっかく大学へ入学できたとしても、そこで怠けてしまってはすぐに弾き出されてしまうのが、この厳しいパイロットの世界です。
航空会社へ無事に入社!
苦労して苦労して・・・無事に厳しい訓練を乗り越えライセンスを取得し、その後の航空会社の入社試験も無事通過し、これで晴れてエアラインへ入社することができたあとは・・・
更に厳しい訓練が待っています。
ライセンス取得までの道は、例えるなら普通自動車免許を取得した段階。
会社へ入社後は、次にF1マシンを運転する訓練を受けなければなりません。
免許取りたての人がF1マシンを運転するなんて不可能なように、旅客機を操縦できるようになるまでには、およそ半年〜1年の厳しい訓練を乗り越える必要があります。
せっかく苦労し、無事に航空会社に入社するところまで辿りついたとしても、この先の訓練で落ちてしまい、パイロットの夢を諦めることになってしまった人は少なくありません。
こういった厳しさがあるこそ、無事に副操縦士になることができた時の感動は大きいのです。
副操縦士昇格後
こうして会社での厳しい訓練も無事に乗り超えた後は、ようやく副操縦士として発令されます。
副操縦士になるまでには、どういったコースでパイロットになるかや、会社がパイロット訓練生に対してどのくらい地上勤務を課しているかにもよりますが、私大コースの場合は、およそ5年〜6年程度かかります。
無事に副操縦士になった後は、給料も増え、周りの女の子からモテモテ、休みも多くなり、これが夢にみたパイロットライフや〜!というのが、理想の姿・・・現実は少しだけ違います。
確かに、給料も急に増え、女の子にモテ始めます。では、何が違うのかというと、休みが休みでないこと。
特に副操縦士に昇格してから1年目は、休みの日=勉強の日になります。
決して全てのパイロットに当てはまるわけではないですが、多くのパイロットは納得してくれると思います。
機長が急病で倒れた場合には、一人で飛行機を操縦し、大勢のお客様を乗せたまま無事に最寄りの空港に着陸させなければいけないのです。それ以外にも様々な状況に機長と協力して対処できる、使える操縦士でなければなりません。
「副操縦士になったとはいえ、僕はまだ新米なのでわかりません〜。」は一切通用しない世界なのです。
正直、私は1年目にもっと勉強しておくべきだっと大いに反省しています。
それくらいこの時期の休日というのは、この先のために勉強をしなければならない貴重な日になります。休日なのに勉強をしなくてはならない職業というのは、一見デメリットにはなりますが、それほど責任感のある仕事ということです。
審査
副操縦士として仕事に慣れてきた後は、だんだんと仕事を楽しめるようになってきますが、それでも 副操縦士、機長に関わらず、パイロット全員に半年に一度、憂鬱な日がやってきます。
それが定期的に行われる審査です。
この審査に合格しなければ、パイロットとして乗務を続けることができません。そして、この審査に落ちることは決して珍しいことではありません。
審査はシュミレーターを使って行いますが、シュミレーターの他にも、最新の法律や規程が頭に入っているかなどの知識確認なども行われます。そのため、審査前は休日を使ってひたすら勉強します。
これが半年に一度の頻度で、引退するまで行われるということを考えると、いかにこの仕事が厳しいかということがよくわかると思います。
他の人のブログですが、「普段は温厚な旦那が審査前は別人のようにイライラしている」というのを読んだことがあります。
これはまさにパイロットあるあるです。
半年に一度のシュミレーター審査があると言いましたが、これ以外にも年に一度、監査フライト、路線審査など会社によって色々と違いますが、実際の定期便に監査官が搭乗し、ジャンプシートと呼ばれる席で、前のパイロットを監査するフライトがあります。
有名ドラマ「GOOD LUCK」を見た方ならわかると思いますが、監査官の香田キャプテンが前の2人を監査しているシーンがまさにそれにあたります。
あのドラマはだいぶパロディが含まれているので、現実とは違う部分が多いですが、監査時の雰囲気などは似ているところがあります。
極度のストレス
職を失う恐怖
デメリットについての記事のつもりが、少し逸れてきたので修正しますと、今まで上で述べた審査や試験などは、全てこのストレスと言えます。
「そんなの働いている人ならどんな仕事だってストレスはあるんだから、みんな同じだろ!」
こんなお怒りの声が聞こえてきそうなので、更に詳しく説明しますと、こういった定期的に起こる審査、試験は、職を失う可能性があるイベントであって、俗にいう仕事のストレスとは大きく異なります。
ドラマのように、監査に落ちてすぐにクビということは日系の会社ではありませんが、外資系ではあることです。
シュミレーター審査、監査フライト、更には毎年の航空身体検査、このどれに落ちてしまってもパイロットの場合は、パイロットでなくなる可能性があるのです。
ざっと思いつくだけでも職を失う可能性はこれだけあります。
- 監査、審査の不合格 (半年/1年に1度)
- 航空身体検査の不合格 (半年/1年に1度)
- 仕事上のミス
- 会社都合(倒産、破産、整理解雇)
例えば、上空で予期できない急な揺れに遭遇し、お客様が不幸にも怪我をされてしまった場合、責任はシートベルトサインをつけなかったパイロットにあります。そして、しばらくの間乗務から外され、その間はパイロットとして飛べなくなってしまいます。しかし、これはまだ良い方で、外資系などでは、以前の審査記録なども加味され、即刻クビになるケースだってあります。
それほど、常に職を失うリスクを背負って仕事をしているのです。
パイロットは用心深い。
私の投資戦略と真逆をいっているこの言葉ですが、背景にはこうした事情があるのです。
世間一般ではあまり知られていませんが、パイロットはなるのも難しい仕事ですが、それと同じくらい資格を維持し続けるのが難しい仕事でもあります。
不規則な勤務
ストレスの他の要因として、不規則な勤務があげられます。
早朝3時出社の翌日は、夜の23時出社。こんなことは日常茶飯事です。
更に、国際線パイロットの場合は16時間のような長時間のフライトにより、毎月昼夜逆転の時差に悩まされます。時差が解消されていないタイミングでの次のフライト。これは慣れるまではかなり大変です。
外が暗かろうが明るかろうが関係なしに、仕事前には十分な睡眠を取らなければなりません。
こんな生活をしながらも、毎年行われる航空身体検査には受からなければならないので、常に健康には気を遣った生活が必要です。
酒とタバコ
こんなにストレスばっかりの環境、酒を呑まなきゃやってられねーぜ!!
思わずこのような気持ちになってしまうかと思いますが、パイロットの仕事をしている以上は、酒呑みであることはデメリットでしかありません。
日本では、乗務前と乗務後にアルコール検査が義務付けられています。ちなみに台湾では検査は義務ではなく、ランダムに指定された乗員が出発前に行うだけです。私が今まで指定されたのはたったの一度だけです。もちろん、検査をしなくともアルコールの影響下にないことを毎回乗務前に、乗員同士で確認をしています。
私の周りでも、酒に呑まれて失敗をしてしまったパイロットの方を大勢見てきました。ストレスが多い環境故に、パイロットの飲酒問題は昔から尽きることがないのも現実ではありますが、パイロットになるまでの過程を考えると、あまりに勿体ない気がします。
また、特に長距離の国際線パイロットの話ですが、16時間近くもタバコが吸えない状況になるので、愛煙家の人には辛い環境です。
酒もタバコも、パイロットにとってはデメリットでしかありません。
飛行機のコントロールはできても自分のコントロールはできない。
こんなパイロットにならない為にも、程々にしておく必要があります。
家族との時間
「亭主元気で留守がいい」
これは1986年に流行ったキャッチコピーですが、まさにこれを希望している奥様方にはもってこいの職業がパイロットです。
国際線、国内線、航空会社によって毎月のステイの頻度は大きく変わってきますが、一例を挙げますと、家に帰らない日が、国内線がメインの会社の場合はおよそ3日〜5日、国際線がメインの場合は5日〜15日ほどあります。
家庭を持っていない独身の人にならなんてことありませんが、家庭があり、かつ子供がまだ小さい場合は、家族と過ごす貴重な時間を仕事に取られてしまうのは大きなデメリットです。
私が考える、パイロットという仕事の1番のデメリットはこれになります。
まとめ
前回のメリット編に続き、今回はデメリット部分についてもご紹介しました。
この記事は完全に私の主観でなので、人によっては違う考え方の方がいるかもしれません。
しかし、実際にエアラインパイロットとして働いている私の意見というのは、パイロットの意見であることに違いはありません。
良い面だけではなく、悪い面も理解してくれた上で、これからパイロットを目指している方は、夢に向かって全力で突っ走って頂けたらと思います。
そしてこのブログを通じて、そういった方達の夢を全力で応援させていただきます!
少しお返事が遅くなってしまうかもしれませんが、届いた質問には全てお答えさせて頂いています。TwitterのDMでも良いですが、このブログの「お問合せから」でも質問いただけますので、何か聞きたい事などありましたら、パイロット、台湾、投資、ジャンルを問わずお待ちしております。
では!
にほんブログ村
コメント